Eさんは末期の肺がんのため、ホスピスケアを自宅で受ける事になりました。スタッフによると、時々、Eさんの不安感が膨らみ、リラクゼーションが必要という事でした。Eさんは、時には私と一緒に歌を歌い、また時にはゆっくりと音楽を聴いてリラックスされました。「音楽は薬のようなもの」と、Eさんが毎回のようにおっしゃっていたのを、今でも覚えています。
また音楽療法が、中期アルツハイマー型認知症をもった、Eさんの旦那さんの役にも立っている事が目に見えました。旦那さんは、少し混乱していらっしゃり、落ち着きがない時は、頻繁に立ったり座ったりなどして、それを見ているEさんにも影響を与えていました。しかし旦那さんは、音楽療法の時は、長く椅子に座っている事ができたのです。
普段、旦那さんは、意味のある活動になかなか参加出来ないものの、音楽療法の時は、Eさんと一緒に音楽に参加されました。はたから見れば、何でもないような光景ですが、Eさんと旦那さんにとっては、とても貴重な時間だったのです。なぜなら、アルツハイマー病をもっている方や、その家族の方にとって、何かを一緒に行うという事は、結構難しい事だからです。
Eさんは「(旦那さんの名前)が、私と一緒に音楽に参加しているのを見ていると、幸せな気持ちになるわ。」と言われました。また時には、Eさんは息子さんや友達を音楽療法セッションに招待して、一緒に時間を過ごしました。その時間が、Eさんだけでなく、息子さんや友達にとっても、良い思い出になるのではないか、と思ったのかもしれません。Eさんは、愛する家族に囲まれ、安らかに息を引き取られたそうです。