ホスピス音楽療法:患者さんだけでなく家族も…

Retired

Eさんは末期の肺がんのため、ホスピスケアを自宅で受ける事になりました。スタッフによると、時々、Eさんの不安感が膨らみ、リラクゼーションが必要という事でした。Eさんは、時には私と一緒に歌を歌い、また時にはゆっくりと音楽を聴いてリラックスされました。「音楽は薬のようなもの」と、Eさんが毎回のようにおっしゃっていたのを、今でも覚えています。

また音楽療法が、中期アルツハイマー型認知症をもった、Eさんの旦那さんの役にも立っている事が目に見えました。旦那さんは、少し混乱していらっしゃり、落ち着きがない時は、頻繁に立ったり座ったりなどして、それを見ているEさんにも影響を与えていました。しかし旦那さんは、音楽療法の時は、長く椅子に座っている事ができたのです。

普段、旦那さんは、意味のある活動になかなか参加出来ないものの、音楽療法の時は、Eさんと一緒に音楽に参加されました。はたから見れば、何でもないような光景ですが、Eさんと旦那さんにとっては、とても貴重な時間だったのです。なぜなら、アルツハイマー病をもっている方や、その家族の方にとって、何かを一緒に行うという事は、結構難しい事だからです。

Eさんは「(旦那さんの名前)が、私と一緒に音楽に参加しているのを見ていると、幸せな気持ちになるわ。」と言われました。また時には、Eさんは息子さんや友達を音楽療法セッションに招待して、一緒に時間を過ごしました。その時間が、Eさんだけでなく、息子さんや友達にとっても、良い思い出になるのではないか、と思ったのかもしれません。Eさんは、愛する家族に囲まれ、安らかに息を引き取られたそうです。

録音された音楽 VS 生の音楽

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「Bさんは、昔の曲のCDとかに全然興味を示さないから、音楽療法士の訪問にも反応しないと思ったわ」と、ある老人福祉施設のスタッフが言いました。そのスタッフは、アルツハイマー型認知症をもっているBさんが、音楽療法士の生の音楽に反応しているのを見て、ビックリしたからです。

その音楽療法士は「CDなど(事前に録音された音楽)と、生の音楽は全く違うのです。私達はそれを知っていて、対象者の方のために、音楽を意図的に使います。」と答えました。

では、録音された音楽と生の音楽の違いとは一体何でしょう?

録音された音楽=セッション中、瞬時にテンポや演奏方法を変える事が出来ない。生の音楽=対象者の方のニーズにより、臨機応変にテンポや演奏方法、使い方を変えられる。

録音された音楽=対象者の方は、スピーカーの振動を感じるかもしれないが、聴覚の刺激が中心。音楽療法士による生の音楽=聴覚だけでなく、視覚、触覚も刺激する。

録音された音楽=視覚的注意を置くところが無い(スピーカーをじっと見つめるわけにもいかない)。音楽療法士による生の音楽=対象者の方が、視覚的注意を置くところがある(これは特に、アルツハイマー型認知症をもった方にとって、とても大切)。

録音された音楽=人との関わりを必要としない。音楽療法士による生の音楽=人との関わりが、セッションの一部である。

このように、録音された音楽と生の音楽には、色々な違いがあります。勿論、録音された音楽が活躍する機会も沢山あります。私達は、自分の好きな音楽を通勤中に聴いたり、リラックスしたい時に、自分にとってリラックス効果のある音楽を聴いたり。。。

しかし、認知症をもった方に関して言うと、大抵、生の音楽の方が効果的であるという事を、自分の臨床経験を通して感じました。

アルツハイマー協会日本語サイト

今日は、アルツハイマー協会の日本語サイト(ここをクリックしてください)を紹介したいと思います。

その中でも、インタラクティブ 脳のツアー は、アルツハイマー病と脳の関係を解り易く説明し、この病気がどのように進行するのかを、絵や写真で表しています。

またアルツハイマー病は、家族、介護者に強い影響を与えるので(家族の者を認識しないなど)、その方々をサポートするページもあります。

昨年、私はこのアルツハイマー協会が主催する、アルツハイマーウォーク(Alzheimer’s Walk)に参加させて頂きました。

このイベントの目的は、アルツハイマー病研究のための資金を集めるという事で、参加者のほとんどは、家族をアルツハイマー病で亡くされた方、老人福祉施設で働いている方でした。

カンザスシティーでも、かなりの寄付金を集める事ができたようです。

音楽療法:楽器を衛生的に保つ事

私の職場では、患者さんの使った楽器やiPadは、ホスピスで指定された殺菌効果のあるシートで拭く事が原則となっています。

できるだけ衛生的な環境を作り、病気や菌が、楽器などを通して広まらないようにする為です。

その理由で、あまり殺菌シートで拭けないような楽器は使いません。

また、自分の手の殺菌も頻繁に行わなければならないので、いつも”殺菌ジェル”をキーチェーンに付け、持ち歩いています。

やはり、衛生第一!

認知症:バリデーション法 vs リアリティーオリエンテーション法

バリデーション法とは、基本的に、認知症を持っている方に共感したり、間違いを指摘せずその方の主観的な現実を受け入れる事。なぜなら、その患者さんの思い込んでいる事は、その方にとっては”現実”だからです。

例えば、Cさんがだいぶ昔に亡くなった母親の事を、今でも生きているように話す。バリデーション法では、”Cさん、あなたのお母さんは、だいぶ前に死んでしまったのよ” などと言わず、Cさんの話の流れに合わせ、お母さんの話をします。

リアリティーオリエンテーション法(見当意識の訓練)は、”本当の現実”を基に、話をする事。例えば、Cさんが、今日は月曜日なのに、火曜日と思っていたら、”今日は月曜日ですよ”と言う。

このように、バリデーション法とリアリティーオリエンテーション法は、全く異なったアプローチなのです。認知症が原因で、ホスピスに来られる方は、既に後期の認知症を持っているので、バリデーション法を使います。しかし、初期の認知症を持っている方には、リアリティーオリエンテーション法が適切だと思います。

認知症&気分向上の役割?

音楽は気分の向上に最適。この事は、ほとんどの方が知っている事であるが、この事実をどう認知症を持った方の為に、使う事ができるか?

私の経験では、音楽療法の直後、患者さんが介護をしている方の指示に、良く従ったりする光景を頻繁に見かける。例:自分で摂取する酸素量が足りない為、酸素濃縮器のチューブを鼻につけないとならない患者さんが、それを拒否する。もちろん、スタッフは、無理矢理そのチューブを、患者さんにつける事はできない。

そこで音楽療法を使い、患者さんの気分の向上を行う。その後、スタッフがその患者さんにチューブをつけようとすると、その患者さんは全く抵抗なし。何の問題もなく、スタッフは患者さんにチューブをつける事ができた。

このような音楽の使い方は、他にも多々ある。例えば、音楽をパーソナルケア(お風呂に入れたりなど)の前や、最中に使うなど。皆さんの経験はどうですか?ご質問、ご感想、お待ちしております。

アルツハイマー病と馴染みのある歌

アルツハイマー病を持っていて、会話のできない方が、すらすらと昔の歌を歌う。このような光景は、音楽療法の現場で、よく見かけるものである。

これは手続き記憶(procedural memory) のお陰なのです。この記憶は長期記憶の一種で、過去に何度も繰り返し行った事を、自動的に行える事。

また音楽は、他の記憶よりも長く脳に残るようである。その為、誰かが馴染みのある曲を歌い始めたら、その曲が自動的に戻ってきて、アルツハイマー病を持った方も、一緒に歌い始める。

参照:

Thaut, M. H. (2008). Rhythm, music, and the brain. New York, NY: Routledge.

音楽療法:シンプル英単語講座1!

音楽療法に関わる用語、それらは英語で何と言うの?

認知症 ー dementia

アルツハイマー病 ー  Alzheimer’s disease

パーキンソン病 ー Parkinson’s disease

血管性認知症 ー vascular dementia

(認知症の種類は、他にもありますが、今回はこの三つだけを紹介させて頂きます。)

自閉症 ー autism

ダウン症 ー  Down syndrome or Down’s syndrome

アルツハイマー型認知症:ゆっくり返事をする時間を与える事が大切

先月、アルツハイマー協会主催のセミナーに参加しました。一番印象に残った事は、アルツハイマーを持った方は、誰かが話しかけた後、返答するのにとても時間がかかる、という事です。もちろん私を含め、多くの人がこの事を知っていましたが、そのセミナーによると、長い時には1分30秒後ぐらいに、アルツハイマー病の患者さんが返答をする、という事でした。それ以来、私も、患者さんに返答する時間を十分に与えるよう、心掛けています。その結果、本当に患者さんは、5秒、10秒してから、返答をするケースがとても多いと感じました。返答をする十分な時間を与えず、何度も続けて問いかけると、その度に、脳の”情報処理機能”が振り出しに戻るそうです。それなので、焦らず、ゆっくり返事をする時間を与える事が大切です。ご意見、ご感想、お待ちしています。

介護をされている方へ

認知症や、その他の病気を持ったご家族の、介護をしている方には、本当に頭が下がります。毎日24時間の介護は、肉体的、そして精神的な疲労も、積もりやすい事だと思います。それなので、短い時間あっても、息抜きや気分転換をする事が大切です。信頼できる家族、または知り合いの方に頼んで、少しの間、介護している方をみてもらい、自分の時間を作るよう心掛けてください。少しの時間でも散歩をしたり、買い物をしたり、友達と話をしたり、趣味を楽しんだりするだけでも、スカっとするものです。