そもそも神経学的音楽療法って何?

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神経学的音楽療法とは、マイケル・タウト博士(Ph.D.)、コリーン・ハート-タウト博士(Ph.D)、医師ジェラルド・マッキントッシュ先生(M.D.)、ルース・ライス理学療法博士(DPT)が、アメリカのコロラド州にあるCenter for Biomedical Research in Music で提唱し、研究、分類した療法です。神経学的音楽療法は、音楽知覚やその他の科学的証拠に基づく介入であり、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中後遺症、自閉症、脳性まひ、外傷性脳損傷など神経疾患をもった方のために使われます。介入では、音楽の要素(リズム、ハーモニー、音階など)を意図的に使い、クライエントの感覚運動、言語、感情、認知機能の向上を目的とします。

例:

歩行練習のための聴覚刺激(Rhythmic Auditory Stimulation – 略してRAS)RASを使った理学療法ー歩行練習のビデオ(MedRhythmsが提供)

運動機能発達のための療法的楽器演奏  (Therapeutic Instrumental Music Performance – TIMP)

失語症(ブローカ失語症など)のためのメロディックイントネーションセラピー (Melodic Intonation Therapy – MIT)

他にも色々な介入がありますが、徐々に皆さんとシェア出来ればと考えております。*神経学的音楽療法士になるには、この療法の特別なトレーニングを受けなければなりません。

Reference: M. H., Thaut (2008). Rhythm, Music, and the Brain. New York, NY: Routledge

 

 

神経学的音楽療法が、左半側空間無視のリハビリに役立つ!

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脳卒中後遺症により、視覚と(空間の)感覚に影響が出たキャロルのための神経学的音楽療法のビデオ(下のリンク)。左側がよく見えなくて、また左側の空間の意識がない。ビデオでも「この絵を同じように描いてください」というアセスメント(時計、家、花)で、絵の左側がよく描けていません。ここで神経学的音楽療法の出番。音階のある楽器を使って、左側を見る、注意を向ける事を促します。なぜ、それが可能なのか?私達は、音楽家である、ないに関係なく、ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ….と聞いたら、自然とその次の音を予測します。その作用をフル活用!右から左に、ド、レ、ミ、ファ…などの音階を置き、キャロルにそのベルを順番に鳴らしてもらいます。そうすると、自然と次の音を予測し、ベルを探す(注意を払い、見る)のです。ビデオはこちら:神経学的音楽療法ーキャロル(約1分)—- アメリカのMedRhythmsという神経学的音楽療法を提供する会社によるもの。

フリーランス音楽療法士としてちゃんと食べていく!ための四つのオキテ

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雇用されて音楽療法士として働いた経験もありますが、今はフリーランスとして働いています。しかしフリーランスと言えば、自分で仕事をゲットしなければならないので、最初は結構プレッシャーもありました。私が長年の経験を通して習った大切な事は…

1.(当たり前の事ですが)いつも自分のスキルアップを目指す。講習会に参加したり、経験のあるセラピストからコンサルティングを受けたり、音楽の幅を広げるなど。自分に「投資」する事は、結果的にクライエントのためになります。

2. 常に新しい機会を探している。今、自分に十分な仕事があっても、クライエントが引っ越したり、契約している施設の予算の関係で、セッションの頻度を減らさなければならない事もあります。そのような時のために、常に新しい機会に目を向けている事はとても大切です。そしてそれは、安定した収入につながります。

3. 人脈を大切にする。時々、過去に一緒に働いていた人から、音楽療法の依頼がきます。ネットワークは本当に大事ですね。

4. 収入源は色々なところから。いつも安定した収入を得たいのならば、一つドカンと大きい契約をゲットして、それだけに頼らないようにしましょう。何らかの理由で、その契約がダメになったら、かなりの「打撃」を受けます。様々な収入源をもつ事が重要です(いろいろな施設、個人との音楽療法、講演など)。

 

認知症:リラックス音楽、映像の逆効果?

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高齢者福祉施設に住んでいるホスピスの患者さんを訪問しました。その方は、リビングにいらっしゃり、そこで音楽療法の訪問を受けたいとの事。特にホスピスは、患者さんの希望を優先するので、患者さんが部屋で訪問を受けたければ、部屋に行き、リビングで受けたければ、そこで訪問します(もちろん、スタッフや他の住居者さんの同意を得た上で)。

認知症をもっている方なので、記憶が曖昧で、時々混乱されますが、音楽療法セッションには活発に参加されました(馴染みのある歌を歌う、明るい表情を見せる、自主的な発言をする、気分の向上の様子、それでいて落ち着いている)。このようなポジティブな状態でセッションを終え、私は、同じ施設に住む別の患者さんの部屋に足を運びました。

その訪問の後、リビングに戻ったら、ゆったりした音楽と自然や鳥の映像からなる「リラックス用のビデオ」がテレビに映されていました。一見、皆、リラックス出来るように見えて……残念ながら、そうでない事が5分でわかりました。

観察して思った事は:

  • 住居者さんが映像と音楽に飽きた(とても単調な映像を30分以上も鑑賞。)。それがイライラの原因になって、歩き回る方が出てきた。私のホスピスの患者さん(最初に訪問した方)も、不安そうな表情を浮かべ、少し混乱しており、そわそわしている(”どこかに行きたいけど、どこに行きたいのかわからない”)。
  • 曲の雰囲気が、かなりノスタルジック…….住居者さん達は、なんだか切ないような、悲しいような音楽を長い間聴いている(注意:悲しい音楽が、いつも人を悲しくするわけではない、という事は本当です。特に、音楽が共感の目的で使われたり、人の気持ちを表現する [失恋した時、それに関係した 歌をカラオケで歌う] 場合は、悲しい音楽は、かなり私達の役に立ちます。)

しかし、誰かが勝手に決めた「リラックス用のビデオ」を、長い間鑑賞する事は、結構、苦痛になる事がわかります。勿論、すべての「リラックス用のビデオ」が悪いというわけではありません。好みや認知症の程度、特徴を考慮して選ぶ必要があります。という理由で “リラックス用のビデオや音楽を流しておけば、皆、リラックスするから….”という絶対的な考えを持たず、きちんと皆さんの反応を見て、ビデオや音楽が適切かどうかを判断する事が大切です。

NICU音楽療法ってどんなもの?

新生児集中治療室(NICU)音楽療法のビデオです(Norton Women’s and Kosair Children’s Hospital)。病院の中でも、特に繊細で、色々な配慮が必要な場所。

音量を調整し、刺激に対するポジチィブな反応、ネガティブな反応を観察しながらセッションを行います。私達にとって普通の刺激でも、未熟児がそれに耐えたり、慣れたりする事には、適切な「練習」が必要なのです。セッション中、ネガティブな反応(過度の刺激などで)が見られたら、一時的にその刺激をストップします。そして赤ちゃんが元(ベースライン)に戻ったら、またその刺激を与えるなどしながら、未熟児が刺激に慣れていく過程をお手伝いします。

また音楽療法は、酸素飽和度の上昇、栄養摂取の促進、体重増加、早めの退院にも繋がるという多くの研究結果が出ています。NICU音楽療法は、音楽療法士の中でも特別なトレーニング(NICU音楽療法)を受け、それをパスした人が適しています(未熟児はとても繊細ですので)。それでは、ビデオをお楽しみ下さい!(英語)

参考文献: Robertson, A. (2009). Music, Medicine & Miracles. Florida Hospital Publishing

ビデオ:Norton Healthcare. https://www.youtube.com/watch?v=sTmKkla6U4A

研究の要約:音楽療法はパーキンソン病患者の吸気圧、呼気圧、嚥下機能を向上する

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研究者:アイオワ州立大学のエリザベス ステジェモラー助教授(運動学)

参加者:40〜85歳のパーキンソン病患者

参加者数:30人

試験(介入)内容:音楽療法士が、1週間に1度の合唱練習を率いた。試験期間は8週間。この研究は、四つのグループから成り立っており、それぞれの合唱練習はアイオワ州の違う場所で行われた。

結果:吸気圧、呼気圧、嚥下機能の向上。

私のコメント:何年か前に、全米音楽療法協会の学会で、ステジェモラー助教授の講演に出席させて頂きました。助教授は音楽療法士であり、パーキンソン病をもった方の研究を中心に行っています。

この研究で、吸気圧、呼気圧の向上は予測通りだったようですが、嚥下機能の向上に助教授も驚かれたようです。私も、パーキンソン病をもった方と働く機会がありますが、音楽療法はこの方々にとって、とても効果的なセラピー(声が大きくなる、動きの促進など)であるといつも感じます。

また、嚥下機能の向上はとても大切ですね。原文の記事にも書かれていますが、音楽療法士によって作られた合唱プログラムは、誤嚥性肺炎の確率を少なくする事に貢献するかもしれません。

英語の原文記事:http://m.iowastatedaily.com/news/academics/article_9f7435a6-ac87-11e4-a895-ab24309d278c.html?mode=jqm

「ラスト・ソング」は、人生について考えさせられる本

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「ラスト・ソング」の中に登場する人々は、色々な事情、 病気をもち、それぞれのチャレンジを目の前にしています。私も、佐藤さんと同じような職場で働いているので、この本を読みながら、自分の過去の患者さんを思い出しました。皆、個性的でニーズも異なり、まさしく十人十色。患者さん本人、家族の方、スタッフが、患者さんに何が大切かを一緒に考え、最後まで共に歩んでいく、それがホスピスケアなのです。

100人いれば、100通りの人生の締めくくり方があると思います。生まれたからには、避けられない「死」。「ラスト・ソング」は、死に直面している方の実話を通して、生きる事の意味、はかなさ、素晴らしさを教えてくれます。また、この本は『自分にとって本当に何が大切か?』という事を、考えさせてくれるのではないでしょうか。

伴奏ではない!神経学的音楽療法

久々のブログ更新です。まず、以下のビデオをご覧下さい(歩行リハビリを行っている患者さんの前で、(神経学的)音楽療法士が後ろ向きに歩きながら、オートハープを弾き、歌を歌っているシーンがあります)。

音楽療法士の役目は?

音楽療法士は患者さんの歩行に合わせて、それを「伴奏」しているのではありません。その反対です。音楽が、歩行を「引っ張る」役目をしているのです。

その「引っ張る」事とは、エントレインメント(同調)の効果によっておこります。強いビートのある音楽が流れている時、私たちの指、足、頭などが、自然にビートに合わせて動く事も、エントレインメントの一つです。

この効果は、神経学的障がいをもっている方のリハビリに有効です。神経学的障がい(パーキンソン病、脳卒中、自閉症など)は、私たちに備わっている、体内リズムに影響を与えるので、外からリズムを与える事が大切なのです。

音楽療法士は、各患者さんの歩行スピードを計算し(または、理学療法士さんが情報提供)、一人一人に合った速さの音楽、またはリズムを使います。ここで、はっきりとしたビートを与える事が重要です。その結果、患者さんの体が、自然にビートと同調しようとするので、歩行が安定し、歩く過程を助けます。

その後は、神経学的音楽療法の手順に従い、速さを少しずつ調節し(殆どの場合、スピードを増す)、最後には音楽を使わないで歩行訓練を行います。

「クラッシュカート」の代わりに「安らぎカート」を…

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アメリカの終末医療に関する、興味深い(英文の)記事を見つけました。直接、音楽療法に関係していませんが、まれなアイディアだと思ったので、ここで大切な点をシェアさせて頂きます(原文はこちら)。

病院には、緊急に蘇生を行うために必要な物が入っている、クラッシュカートというものがあります。この記事によると、蘇生を受け、元気に病院を去る患者さんは、20%以下だという事です。そして、末期の病気をもっている、患者さんの蘇生の成功率は、殆どゼロに近いとありました。

そこで「安らぎカート」のいう物が作られたそうです。このカートには、音楽、いろいろな宗教の聖典 、手形などを作る事のできるキット、ボランティア手作りのブランケット(軽い毛布)が含まれています。患者さんが亡くなった時には、家族がそのブランケットを、持ち帰る事もできます。また、家族の方には、終末期やグリーフなどに関する、パンフレットも提供されるという事です。

末期患者であるスティーブンさんの息子さん達は、ブランケットを選び、それをそっとスティーブンさんに掛けてあげました。そして昔、キャッチボールをしてくれた、父と自分の手型を並んでとり、最後に記念になる物を作ったという事です。

もちろん、安らぎカートは、息が止まった人を蘇生する事は出来ません。しかし、暖かみのある環境を作り、家族が大変な時に、安らぎを感じる時間を作るお手伝いをしています。

ホスピス音楽療法:患者さんだけでなく家族も…

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Eさんは末期の肺がんのため、ホスピスケアを自宅で受ける事になりました。スタッフによると、時々、Eさんの不安感が膨らみ、リラクゼーションが必要という事でした。Eさんは、時には私と一緒に歌を歌い、また時にはゆっくりと音楽を聴いてリラックスされました。「音楽は薬のようなもの」と、Eさんが毎回のようにおっしゃっていたのを、今でも覚えています。

また音楽療法が、中期アルツハイマー型認知症をもった、Eさんの旦那さんの役にも立っている事が目に見えました。旦那さんは、少し混乱していらっしゃり、落ち着きがない時は、頻繁に立ったり座ったりなどして、それを見ているEさんにも影響を与えていました。しかし旦那さんは、音楽療法の時は、長く椅子に座っている事ができたのです。

普段、旦那さんは、意味のある活動になかなか参加出来ないものの、音楽療法の時は、Eさんと一緒に音楽に参加されました。はたから見れば、何でもないような光景ですが、Eさんと旦那さんにとっては、とても貴重な時間だったのです。なぜなら、アルツハイマー病をもっている方や、その家族の方にとって、何かを一緒に行うという事は、結構難しい事だからです。

Eさんは「(旦那さんの名前)が、私と一緒に音楽に参加しているのを見ていると、幸せな気持ちになるわ。」と言われました。また時には、Eさんは息子さんや友達を音楽療法セッションに招待して、一緒に時間を過ごしました。その時間が、Eさんだけでなく、息子さんや友達にとっても、良い思い出になるのではないか、と思ったのかもしれません。Eさんは、愛する家族に囲まれ、安らかに息を引き取られたそうです。