認知症患者とグリーフ

heart (with hands)

認知症をもった患者さんで、最近、奥さんや旦那さんを亡くされた方がいます。認知症にも色々なタイプがあり、皆が何も覚えていない訳ではありません。家族や近い友人を亡くす事は、私たちに大きな影響を与えますが、多くの認知症患者も同じように深い悲しみ(グリーフ)を経験します。

私の患者Hさんは、時々混乱して記憶もあいまいですが、最近亡くなった旦那さんの事を思い出して、泣き出してしまう事があります。このような「事態」を出来るだけ避ける為に、Hさんのスタッフ(高齢者福祉施設)は「旦那さんの話は、なるべくしないようにしてるの。」と言いました。

音楽療法では、どんな反応をされるだろう?と思いながら、Hさんとのセッションを始めました。こういった場合、思ったよりも選曲が難しいのです。Hさんは自分で「この曲を聴きたい。」というような判断は出来ないので、私は幾つかチョイスとしてジャンルをあげました(カントリー、ポピュラー、賛美歌など)。

Hさんは賛美歌を選び、私は過去にHさんがよく反応された曲を歌い始めました。そして…….Hさんは涙を流しました。賛美歌は告別式でもよく使われるので、旦那さんの事を思い出したのでしょう(Hさんは、旦那さんがお亡くなりになる前のセッションでは、一度も泣いた事がありません)。普段、めったに患者さんをハグしない私ですが、この時はHさんをハグして「泣いていいんですよ。」と言いました。

患者さんの悲しみをしっかりと受け止める事は、音楽療法士の大切な役目です。Hさんの施設のスタッフは、Hさんが旦那さんの事を考える=悲しくなる=ネガティブな事、のように考えているようでしたが(または1:1でじっくり話す時間がないからなのか)、大切な人を亡くして悲しくなったり、涙を流したりする事は、ごく当たり前の事です。そしてこれらは、グリーフという長いトンネルをくぐり抜ける為に必要な過程でもあります。

認知症をもった方も他の人のように、悲しみを表現する機会が必要だと私は思います。皆さんは、どうお考えでしょうか?

Advertisements

科学に基づいた研究:馴染みのある曲を認識する脳の部分?

headphone (red)

「この曲、知ってる!」と馴染みのある曲を認識する脳の部分?そういう所があったんですね。それを発見した研究論文を要約してみました。

論文:Why musical memory can be preserved in advanced Alzheimer’s disease

研究者:Jacobsen, Stelzer, Fritz, Chetelat, Joie & Turner

方法:

ステップ1:36人の被験者(28歳前後)に(1)知らない曲(2)1時間前に聴いた曲(3)馴染みのある曲を聴かせて、fMRIで脳の反応を分析。脳の尾側前帯状回と前補足運動野が、馴染みのある曲の認識に関わる事を発見。

ステップ2:アルツハイマー病患者と健康な大人(両方のグループの年齢は、68歳前後)の脳を見てみる。アルツハイマー病患者の「馴染みのある曲を認識する脳の部分」(尾側前帯状回と前補足運動野)に注目してみると:

  • アミロイドベータの沈着はあるが、バイオマーカーとしては初期の段階(病気の進行段階としては、アミロイドベータの蓄積=>代謝低下=>皮質縮小)
  • そのためグルコース代謝の乱れと、皮質萎縮は最小限

簡単にまとめると….脳がアルツハイマー病のダメージを受けていても、馴染みのある音楽を認識する部分は、比較的、その影響を受けていない。その結果、患者さんは他の事を忘れても、馴染みのある曲を覚えている。

参考文献:

Jacobsen, J., Stelzer, J., Fritz, T. H., Chetelat, G., Joie, R. L., & Turner, R. (2015). Why musical memory can be preserved in advanced Alzheimer’s disease. Retrieved from  http://brain.oxfordjournals.org/content/early/2015/06/03/brain.awv135

認知症:活発な事を行ってリラックス[3] 補助付きで歩く?踊る?

woman in yellow flowers
音楽療法の仕事を通して、色々な施設に行く機会があります。何年か前に数えたら、なんと100カ所以上!!自分でもびっくりしました。高齢者福祉施設でも色々な個性があり、異なる環境を見たり経験する事により、私も多くの事を学びます。

高齢者福祉施設では、車椅子に座っている住居者さんがほとんどです。しかし、落ち着きが無いからなのか、ずっと座っている事が苦痛なのか、立ち上がろうとする方がいらっしゃいます(最近、高齢者福祉施設では、立ち上がれないようにするベルトは見かけません。これはきっと「束縛」と解釈されるからだと思います。その代わりに、立ち上がったら鳴るブザーが付けられている車椅子を見かけます。)

私の患者さんの中でも、認知症をもち、車椅子が必要な方がいらっしゃいます。それでも、立ち上がろうとする方が2−3人。そこで、何度も「立とうとしないでください」と言って、車椅子にずっと座っている事をすすめる施設と、看護助手が、(時間がある時に)住居者さんを補助し、少し歩く機会を与える施設があります(もちろん、ここでの目的はリハビリではなく、必要でない時に立とうとする行動や、落ち着きの無い行動を減らす事)。

また、スタッフが住居者さんの手を取り(転倒防止)、CDに合わせて一緒に踊っている場面も見た事があります。音楽療法セッション中にも、踊り出す方がいらっしゃいますね。その時は、スタッフが住居者さんをサポートし、一緒にスローワルツを踊ったり、適切であればアップテンポの踊りを行います。

もし自分が認知症になったら…..きっと立とうとするタイプです(ずっと座っている事って大変ですよね)。私は、今日紹介した介入の専門家/研究家ではないので、何が一番効果的なのかは知りません。しかし、私だったらスタッフの補助付きで、歩かせてもらうか、簡単なダンスをさせてもらえる事を願ってます。私はその方が落ち着くでしょう。皆さんはどう思いますか?

認知症:活発な事を行ってリラックス[2](色鮮やかなスカーフ)

scarves2週間前、ホスピスの患者さんを訪問する為、高齢者福祉施設に向かいました。いつものように、その棟に入る為のパスワードを押して、ドアを開けると、私の患者さん(Sさん)がダイニングテーブルの所に座っているのが見えました。

近づくと、Sさんがテーブルクロスを自分の方に引っ張っていて、その上にあったグラスやお皿が落ちそうになっているではありませんか(汗)。私は、Sさんに(シンプルに)「手を離しましょう。」と言いましたが、反応がありません。今度は、丁寧にSさんの手をテーブルクロスから離そうとしましたが、Sさんは反対にもっと強くテーブルクロスを握りしめました。

そこで私は、バックに入っていたスカーフをさっと取り出し、「Sさん、スカーフ」と言って彼の前に差し出しました。テーブルクロスをしっかりと握っていた手は、自然とスカーフに移り、それを両手でクシュクシュッと動かし始めました。私は、違う色のスカーフもSさんに渡し、彼は2色のスカーフを手でクシュクシュッと…..(ここで一安心)。一時して落ち着いたのか、スカーフをテーブルに置き、テーブルクロスを引っ張る事もありませんでした。

このように、落ち着きが必要な方と働く時は、ギターに加え、幾つか「小道具」を持ち運びます。カラフルなスカーフ、小さい楽器(レインスティク、ドラム)などです。色とりどりのスカーフは、クライエントの注意を一瞬にして引き、彼らはそれを動かしたり、ひだを作ったり、たたんだり、頭に乗せたりする方もいらっしゃいます(大抵、そこで笑いが出る)。

ところで、アルツハイマー型認知症が進行してくると、布団のシーツなどを指先で頻繁につまみ上げるような行動が見られます(個人差がありますが)。また、手を休みなしに動かす方もいらっしゃいます。スカーフは、こういった場合にも適しているかもしれません(しかも、場所を問わず使えます)。音楽療法では「Over the Rainbow」などの曲に合わせてスカーフを動かし、リラックスされる方、結構多いです。

上記は本当にシンプルな事ですが、言葉のコミュニケーションに重度の支障がある場合は、「__さん、___しないで下さいね」と言うよりも、興味を引く何か(クライエントが好きな物、好みの音楽)を使い、介入したほうが上手くいきます。

認知症:活発な事を行ってリラックス[1](人形)

doll

前回のブログは、リラックス用の映像/音楽の使用が、必ずしも認知症をもった方のリラックスに繋がるとは限らない、むしろ、逆効果を招く事もある、といった内容でした。何もしないで、長い時間、椅子に座っている事は、誰にでもイライラ、そわそわ感を引き起こす可能性があります。

私も、家のソファーに長時間座って、興味のない映画を鑑賞をするよりも、何か能動的な事(パンを焼く、犬と遊ぶ、ネット検索、ブログを書くなど)を行ってリラックス&リフレッシュします。認知症をもった方も、何かを行う事で落ち着くという場面を、何度も臨床の場で経験しました。それらをいくつかのブログに分けて、紹介させて頂きます。

こちらの高齢者福祉施設では、赤ちゃんの人形、洗濯物のかごに入ったタオル、シンプルな玩具のような物、色々な手触りのクッションなどを見かける事があります。特に、赤ちゃんの人形は定番です。日本の施設ではどうなのでしょうか?

人形は、中が空っぽの物だけでなく、重りが入っている物もあります(重りは、本当の赤ちゃんの感じを与える為か、ズシッとした重みが落ち着きに繋がる??という理由なのか…わかりません)。赤ちゃんの人形を大切に抱え、頭をなでたり、優しく語りかける女性の高齢者を見かけます。

そして音楽療法士の私は、その方に「赤ちゃんに、子守唄を歌いましょうか?」と問いかけ、 オーケーでしたら(一緒に、または私が)子守唄を歌い、高齢者の方は、満足そうな笑顔を浮かべます。赤ちゃんの人形を抱え(殆どの方は、本当の赤ちゃんだと思っている)、役割をもつ事が、落ち着きに繋がっているのだと私は感じます。

認知症:リラックス音楽、映像の逆効果?

sky-bird-flying-seagull

高齢者福祉施設に住んでいるホスピスの患者さんを訪問しました。その方は、リビングにいらっしゃり、そこで音楽療法の訪問を受けたいとの事。特にホスピスは、患者さんの希望を優先するので、患者さんが部屋で訪問を受けたければ、部屋に行き、リビングで受けたければ、そこで訪問します(もちろん、スタッフや他の住居者さんの同意を得た上で)。

認知症をもっている方なので、記憶が曖昧で、時々混乱されますが、音楽療法セッションには活発に参加されました(馴染みのある歌を歌う、明るい表情を見せる、自主的な発言をする、気分の向上の様子、それでいて落ち着いている)。このようなポジティブな状態でセッションを終え、私は、同じ施設に住む別の患者さんの部屋に足を運びました。

その訪問の後、リビングに戻ったら、ゆったりした音楽と自然や鳥の映像からなる「リラックス用のビデオ」がテレビに映されていました。一見、皆、リラックス出来るように見えて……残念ながら、そうでない事が5分でわかりました。

観察して思った事は:

  • 住居者さんが映像と音楽に飽きた(とても単調な映像を30分以上も鑑賞。)。それがイライラの原因になって、歩き回る方が出てきた。私のホスピスの患者さん(最初に訪問した方)も、不安そうな表情を浮かべ、少し混乱しており、そわそわしている(”どこかに行きたいけど、どこに行きたいのかわからない”)。
  • 曲の雰囲気が、かなりノスタルジック…….住居者さん達は、なんだか切ないような、悲しいような音楽を長い間聴いている(注意:悲しい音楽が、いつも人を悲しくするわけではない、という事は本当です。特に、音楽が共感の目的で使われたり、人の気持ちを表現する [失恋した時、それに関係した 歌をカラオケで歌う] 場合は、悲しい音楽は、かなり私達の役に立ちます。)

しかし、誰かが勝手に決めた「リラックス用のビデオ」を、長い間鑑賞する事は、結構、苦痛になる事がわかります。勿論、すべての「リラックス用のビデオ」が悪いというわけではありません。好みや認知症の程度、特徴を考慮して選ぶ必要があります。という理由で “リラックス用のビデオや音楽を流しておけば、皆、リラックスするから….”という絶対的な考えを持たず、きちんと皆さんの反応を見て、ビデオや音楽が適切かどうかを判断する事が大切です。

音楽を聴いて、なぜ思い出が戻ってくるのか?

日本でも、認知症と音楽のドキュメンタリー『パーソナル・ソング』が公開されているようですね。音楽を使って、認知症をもった方とつながり、一緒に回想したりする事は、素晴らしい事だと思います。さて、今日は「音楽を聴いて、なぜ記憶がよみがえってくるのか?」という質問に焦点をあてます。

英語で「neurons that fire together wire together」という言葉を聞いた事があります。ニューロン発火が一緒に起こった出来事は、その後も深い関係を持ち続けるという事です(勿論、これは音楽に限った事ではありません。しかし、ここでは音楽に注目)。

例えば、自分の結婚式にある曲を使ったとする。それから何十年も経って、その「ある曲」を聴いたら、結婚式の思い出が鮮明によみがえってくる。戦争中、戦場で歌った軍歌を聴くと、戦争の思い出が戻ってくる。

「蛍の光」を聴くと、卒業式、または閉店前のスーパーを思い出す(笑)。ラジオを聴いていて、亡くなった友人の好きだった音楽が流れると、瞬時にその人を思い出す。音楽って、とてもパワフル。ちなみに、この曲はその友人の好きだった曲。

参照:http://www.psc.edu/science/Miikkulainen/Miikkul-fire.html

研究結果:音楽に合わせて歌う VS 聴くだけ

brain

バージニア州ジョージメイソン大学の脳科学者ジェーンフリン氏による、音楽を使った研究結果です。

対象者:アルツハイマー型認知症患者

試験内容:馴染みのあるミュージカルの曲を中心に、週1回のセッションを4ヶ月間行った。

グループ1:音楽に合わせて歌う。

グループ2: 音楽を聴く。

結果:音楽と一緒に歌ったグループ1は、認知能力、描画テスト(針のない時計の図に、言われた時間の針を書き込む。)、生活に対する満足感の向上を見せた。特に、症状が進行した方に効果があった。

ジェーンフリン氏によると、歌に積極的に参加する事は、脳の多くの部分を刺激するとの事。やはりここでも、音楽に能動的に参加する事は、受動的な参加よりも、脳に良い影響を与えるという事が証明されています。

参考文献:The Guardian. (2013). Alzheimer’s patients’ brains boosted by belting out Sound of Music. Retrieved on November 16, 2013, from http://www.theguardian.com/science/2013/nov/11/alzheimers-patients-brains-boosted-sound-music-singing

録音された音楽 VS 生の音楽

guitar.jpg

「Bさんは、昔の曲のCDとかに全然興味を示さないから、音楽療法士の訪問にも反応しないと思ったわ」と、ある老人福祉施設のスタッフが言いました。そのスタッフは、アルツハイマー型認知症をもっているBさんが、音楽療法士の生の音楽に反応しているのを見て、ビックリしたからです。

その音楽療法士は「CDなど(事前に録音された音楽)と、生の音楽は全く違うのです。私達はそれを知っていて、対象者の方のために、音楽を意図的に使います。」と答えました。

では、録音された音楽と生の音楽の違いとは一体何でしょう?

録音された音楽=セッション中、瞬時にテンポや演奏方法を変える事が出来ない。生の音楽=対象者の方のニーズにより、臨機応変にテンポや演奏方法、使い方を変えられる。

録音された音楽=対象者の方は、スピーカーの振動を感じるかもしれないが、聴覚の刺激が中心。音楽療法士による生の音楽=聴覚だけでなく、視覚、触覚も刺激する。

録音された音楽=視覚的注意を置くところが無い(スピーカーをじっと見つめるわけにもいかない)。音楽療法士による生の音楽=対象者の方が、視覚的注意を置くところがある(これは特に、アルツハイマー型認知症をもった方にとって、とても大切)。

録音された音楽=人との関わりを必要としない。音楽療法士による生の音楽=人との関わりが、セッションの一部である。

このように、録音された音楽と生の音楽には、色々な違いがあります。勿論、録音された音楽が活躍する機会も沢山あります。私達は、自分の好きな音楽を通勤中に聴いたり、リラックスしたい時に、自分にとってリラックス効果のある音楽を聴いたり。。。

しかし、認知症をもった方に関して言うと、大抵、生の音楽の方が効果的であるという事を、自分の臨床経験を通して感じました。

老人福祉施設でラップミュージック?

「今から30年、40年したら、(アメリカの)老人福祉施設では、ラップミュージックがよく聴かれるでしょう。」と言うと、殆どの方が大笑いします。

老人福祉施設で耳にする音楽といえば、「You Are My Sunshine」や「Home on the Range」というイメージがあるので、ラップやレディーガガを聴くお年寄りを想像する事は、結構難しいものだからです。

でも、エルビスプレスリーの例を考えてみて下さい。彼が流行りだした頃、エルビスは今までで最も「スキャンダラス」な歌手をして知られました。腰を振り、若い女の子は黄色い声をあげて、エルビスのコンサートなどに行ったようです。

そして今、そのエルビスに夢中になった年代の方々が年をとり、老人福祉施設に住んでいます=そこでエルビスの音楽が聴かれる、という事です。そう言えば、あるクライエントさんの部屋には、エルビスの等身大のポスターがありました。

つまり、人が年をとると、大抵の方が若い時(思春期、20代前半)に聴いた音楽を好んだり、それによく反応されたりします。特に認知症をもっている方はそうです。また、後期の認知症をもっている方は、幼年時代の音楽にもよく反応されますが(この説明はまた後ほど。)。

あなたは思春期、20代前半頃、どんな音楽を聴かれましたか?