脳性まひ:神経学的音楽療法の効果は?

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私の友人であり、素晴らしい音楽療法士のユーリン・チェン氏と他の医療関係者が一緒に行った研究の要約です。この研究はデザインの質も高く、このようなリサーチがどんどん行われる事を願っています。

題:A Home-Based Program Using Patterned Sensory Enhancement Improves Resistance Exercise Effects for Children with Cerebral Palsy: A Randomized Controlled Trial

対象者:痙性両側麻痺をともなう脳性麻痺児(5−13歳)32人 

神経学的音楽療法テクニック:パターン的感覚強化 (Patterned Sensory Enhancement – PSE) 神経学的音楽療法士ユーリン・チェン氏が、音階、強弱、ハーモニーなどを使い、動きの促進を目的とした音楽を作成。録音されたものが治療群で使用された。

研究方法:

ランダム化比較試験 ー 治療群(PSE音楽) vs 対照群(音楽なし

対象者が椅子から立ち上がり、座るという運動を繰り返し行う(期間は6週間)。

結果:

両グループが、総運動機能測定(Gross Motor Function Measure- GMFM) のカテゴリーD (立ち上がる) とカテゴリーE (歩く、走る、ジャンプする)で改善を見せた。そしてPSE音楽群は、立ち上がる動作と目標寸法で対照群よりも大きく改善。また、この改善が6−12週間後にも持続していた。

まとめ:

神経学的音楽療法のパターン的感覚強化(PSE)は、痙性両側麻痺児の「立ち上がる」動作を大きく改善する。

参考文献 (原文):T. Wang, Y. Peng, Y. Chen, T. Lu, H. Liao, & P. Tang. (2013). Home-Based Program Using Patterned Sensory Enhancement Improves Resistance Exercise Effects for Children with Cerebral Palsy: A Randomized Controlled Trial. Retrieved from http://nnr.sagepub.com/content/27/8/684.short

研究結果:音楽レッスンは発語認識に役立つ

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英語で書かれていた、ある研究を要約しました(原文)。
参加者:55歳から75歳までの健康な方(*音楽レッスン経験者=10人、未経験者=10人)

*ここでの「音楽レッスン経験者」の基準は、14歳までに音楽レッスン始め、最低10年間続けた人

試験方法:参加者はヘッドフォーンをつけ、シンプルな母音や、もっと難しい発語を聴き、それを出来るだけ正確に認識する。研究者は、EEGで参加者の脳の活動を記録。

結果:音楽レッスン経験者が、未経験者よりも、効率よく、正確に発語を認識した。

(私の感想)同じ「音」を聴いても、人によって脳の働きやスピードが違うのですね。”皆、同じように音を聴いているようで、実はそうではない”という経験が、自分でもあります。例えば、英語の同じ(発音の)言葉を日本語で書くと、人によって、かすかに書き方が違う事。アメリカ英語、イギリス英語、またオーストラリアの発音は異なったりするので、その点での違いはわかります。しかし、アメリカに長く住んでいる人の中でも、同じ英語の言葉を日本語で書くと、結構、異なる事があります(アメリカ国内でも、少し発音が違う事がありますが、殆どの人が同じような全米放送テレビ番組を見ているので、基本的なところは同じ)。例えば、牧師(chaplain)は、自分にとっては「チャプラン」と聞こえますが、「チャプレン」と書いている例を見た事があります。

また、英語のネイティブスピーカーにとって「R」と「L」は、全く異なる音ですが、日本人にとって、この二つを聞き分ける事はとても難しい(Play/pray, flight/fright など。特に早口で話されると、かなり困難)。そこで、自分で考えた対策方法は、これらの言葉の「音色」を聞き分ける事。暗い音、こもった音だったら「R」で、明るく晴れ晴れした音だったら「L」という判断を勝手にする(自分的には、成功率高いです。)。ここで、自分の音楽トレーニングが役に立っているのでは?と思いました。音楽を演奏する場合、正しい音符を弾くだけでなく、音色にも注意を払う事が大切だからです。

話は少し逸れましたが、上記の研究によると、音楽レッスンは、その後の発語認識に役立つ=コミュニケーション円滑に繋がるという事です。

音楽療法論文の過程で習う事

論文を書く事は、忍耐力、継続力を必要としますね。

”良い論文”を完成させる事がもちろん目標ですが、その過程で習う色々な事が、とても大切だと実感しています。

例えば、多くのリサーチや本を読み、それらを自分の論文の資料として使う。

この過程が知らぬ間に、自分が行う音楽療法の為にもなり、専門性を増す手助けにもなっていると思います。

私の論文は認知症に関係しているので、音楽療法関連だけでなく、認知症全般の資料も多く読みました(と言うより、読まなければなりませんでした。)。

知らない事がたくさんあるのだなーと、再度、痛感。

論文を書いている(特に学生の) 皆さん、その経験は、必ず将来役に立ちます!

一歩一歩、前進!

音楽療法論文: 実験的研究のデザイン

実験的研究の論文を書く際、何が一番大変かというと、実験のデザイン(自分も、この段階にとても時間をかけてます)。実験環境を影響するような要素を、できるだけコントロールしたり、客観的な記録ができる手順を設定するなど、細かい配慮が必要。実験を始めてから、そのデザインや手順を変える事はできないので、デザイン設計を、本当に慎重に行わなければならない。特に、実際の現場(例:老人介護施設、病院)で、音楽療法の実験研究を行う場合、色々な物が結果を左右する可能性がある。もちろん、何の分野であれ、完璧な実験を実施する事は不可能に近いが、できるだけ、良い研究デザインを設定する事が私達の目標。音楽療法の論文を書いている皆さん、一緒に頑張りましょう!

音楽療法=認知症の予防?

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インターネットで音楽療法と認知症を一緒に検索してみると、”音楽療法を使って認知症の予防!”といったような、題名をたくさん目にします。では、音楽療法で認知症を防げるのでしょうか??????

私はできるだけ多くの論文やリサーチを読むよう心掛けていますが、今現在、私の知っている限りでは、音楽療法またはその他の療法で認知症を防ぐ事はできません(”防ぐ”という事は、”認知症にならない”と言う事です。)。音楽療法は、初期の認知症の進行状態を、遅らせる可能性があると思います(でも今の段階では、”可能性”です。もちろん、”進行を遅らせる”と”予防”は全く違う意味ですよね。)。

しかし音楽療法は、色々な面で認知症の方に効果的です(回想法の役に立つ、人とのふれあいを促すなど)。それなので、音楽療法は認知症をもっている方にとても適切です。ただ、”認知症の予防”に関しては、これからもっと科学的、そして質の高い音楽療法のリサーチが行われる事を望んでいます。また私もその一人の研究者として、老人医療に長く関わっていければなーと思っているこの頃です。