「音楽療法士です。」「クスッ(笑)。」バカにされた私の反応は?

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「私は、__ホスピスの音楽療法士です。Vさんを部屋で訪問しますね。」と、高齢者福祉施設の初対面の若い看護師に言うと、「クスッ」と笑われました。アメリカでは音楽療法が日本よりも普及しているといっても、こういった反応をたまーにされます。特に、新人のスタッフに多いですね(経験のあるスタッフの殆どは、音楽療法士と働いた事があるとか、音楽のパワーを医療現場で見た事がある)。

内心、少しムカッとしながらも(笑)、”この看護師は音楽療法について知らないだけ。この機会は、音楽療法のパワーを発揮し、それについて話す絶好のチャンス”と自分に言いきかせ、笑顔で対応し、いつものようにVさんの部屋に向かいました。

Vさんは末期の病気の為、無表情で壁を見つめ、質問にも反応せず、発語もめったにありません。アイコンタクトもまれです。しかし、音楽療法がそのバリアを一瞬にして吹き飛ばします!私がゆっくりと歌を歌い、手で合図をしてVさんの参加を促すと、彼女が馴染みのある曲を少し歌います。

Vさんも、”自分が歌っている”という事がわかっているようです。彼女の表情がパッと明るくなり、無邪気な笑顔も見せ、音楽が情緒に刺激を与えている事がわかります。音楽療法の前は、無表情で全く話さなかったVさんですが、歌の後は簡単な質問にも答えられました。

音楽療法が脳を刺激し、コミュニケーションを促し、感情を引き出し、人として関わる時間を作りました(ホスピス音楽療法の目的はリハビリではないので、Vさんが楽しめる範囲で歌を歌ったり、簡単な会話を行います)。

セッション記録を行い、さっきの看護師に報告(看護師はびっくりした顔でセッション内容を聴いていましたが)。そして、音楽療法についても少し話しました。終わり良ければすべて良し!この日も音楽療法の事を少し世間に広めました。この療法が必要な方はたくさんいらしゃいます。音楽療法士の皆さん、めげないで頑張ってください!

認知症患者とグリーフ

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認知症をもった患者さんで、最近、奥さんや旦那さんを亡くされた方がいます。認知症にも色々なタイプがあり、皆が何も覚えていない訳ではありません。家族や近い友人を亡くす事は、私たちに大きな影響を与えますが、多くの認知症患者も同じように深い悲しみ(グリーフ)を経験します。

私の患者Hさんは、時々混乱して記憶もあいまいですが、最近亡くなった旦那さんの事を思い出して、泣き出してしまう事があります。このような「事態」を出来るだけ避ける為に、Hさんのスタッフ(高齢者福祉施設)は「旦那さんの話は、なるべくしないようにしてるの。」と言いました。

音楽療法では、どんな反応をされるだろう?と思いながら、Hさんとのセッションを始めました。こういった場合、思ったよりも選曲が難しいのです。Hさんは自分で「この曲を聴きたい。」というような判断は出来ないので、私は幾つかチョイスとしてジャンルをあげました(カントリー、ポピュラー、賛美歌など)。

Hさんは賛美歌を選び、私は過去にHさんがよく反応された曲を歌い始めました。そして…….Hさんは涙を流しました。賛美歌は告別式でもよく使われるので、旦那さんの事を思い出したのでしょう(Hさんは、旦那さんがお亡くなりになる前のセッションでは、一度も泣いた事がありません)。普段、めったに患者さんをハグしない私ですが、この時はHさんをハグして「泣いていいんですよ。」と言いました。

患者さんの悲しみをしっかりと受け止める事は、音楽療法士の大切な役目です。Hさんの施設のスタッフは、Hさんが旦那さんの事を考える=悲しくなる=ネガティブな事、のように考えているようでしたが(または1:1でじっくり話す時間がないからなのか)、大切な人を亡くして悲しくなったり、涙を流したりする事は、ごく当たり前の事です。そしてこれらは、グリーフという長いトンネルをくぐり抜ける為に必要な過程でもあります。

認知症をもった方も他の人のように、悲しみを表現する機会が必要だと私は思います。皆さんは、どうお考えでしょうか?

私だったら、このラストソング

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全米認定音楽療法士、佐藤由美子さんの本ラスト・ソング〜人生の最期に聴く音楽』を読んでからずっと「私だったら、どの曲を最期に聴きたいだろう?」と考えていました。昔からずっと好きなドリカム?渡米直後によく聴いて、励みにもなった宇多田ヒカル?ここ2−3年好きなジャック・ジョンソン?リラックス出来て、何年か前の手術後、痛みの緩和にも役立ったボサノバのJoao Gilberto?

ドリカムや宇多田ヒカルさんの歌は、回想のために使って、痛みがあればJoao Gilbertoを流してほしいです。そしてラストソングは、ジャック・ジョンソンの『Angel』がいいかもしれません。この曲、眠れない時に聴きますが、3回ぐらいリピートすると落ち着き、私は眠る事ができます。

個人によって、聴きたいラストソングは異なるもの。佐藤さんの本で紹介された曲のコンピレーションCDも発売されますが、その中に含まれている曲も様々です。皆さんの希望するラストソングは何でしょう?この曲(英語の歌詞付き)は、私のリクエストです。

「ラスト・ソング」は、人生について考えさせられる本

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「ラスト・ソング」の中に登場する人々は、色々な事情、 病気をもち、それぞれのチャレンジを目の前にしています。私も、佐藤さんと同じような職場で働いているので、この本を読みながら、自分の過去の患者さんを思い出しました。皆、個性的でニーズも異なり、まさしく十人十色。患者さん本人、家族の方、スタッフが、患者さんに何が大切かを一緒に考え、最後まで共に歩んでいく、それがホスピスケアなのです。

100人いれば、100通りの人生の締めくくり方があると思います。生まれたからには、避けられない「死」。「ラスト・ソング」は、死に直面している方の実話を通して、生きる事の意味、はかなさ、素晴らしさを教えてくれます。また、この本は『自分にとって本当に何が大切か?』という事を、考えさせてくれるのではないでしょうか。

「クラッシュカート」の代わりに「安らぎカート」を…

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アメリカの終末医療に関する、興味深い(英文の)記事を見つけました。直接、音楽療法に関係していませんが、まれなアイディアだと思ったので、ここで大切な点をシェアさせて頂きます(原文はこちら)。

病院には、緊急に蘇生を行うために必要な物が入っている、クラッシュカートというものがあります。この記事によると、蘇生を受け、元気に病院を去る患者さんは、20%以下だという事です。そして、末期の病気をもっている、患者さんの蘇生の成功率は、殆どゼロに近いとありました。

そこで「安らぎカート」のいう物が作られたそうです。このカートには、音楽、いろいろな宗教の聖典 、手形などを作る事のできるキット、ボランティア手作りのブランケット(軽い毛布)が含まれています。患者さんが亡くなった時には、家族がそのブランケットを、持ち帰る事もできます。また、家族の方には、終末期やグリーフなどに関する、パンフレットも提供されるという事です。

末期患者であるスティーブンさんの息子さん達は、ブランケットを選び、それをそっとスティーブンさんに掛けてあげました。そして昔、キャッチボールをしてくれた、父と自分の手型を並んでとり、最後に記念になる物を作ったという事です。

もちろん、安らぎカートは、息が止まった人を蘇生する事は出来ません。しかし、暖かみのある環境を作り、家族が大変な時に、安らぎを感じる時間を作るお手伝いをしています。

ホスピス音楽療法:患者さんだけでなく家族も…

Retired

Eさんは末期の肺がんのため、ホスピスケアを自宅で受ける事になりました。スタッフによると、時々、Eさんの不安感が膨らみ、リラクゼーションが必要という事でした。Eさんは、時には私と一緒に歌を歌い、また時にはゆっくりと音楽を聴いてリラックスされました。「音楽は薬のようなもの」と、Eさんが毎回のようにおっしゃっていたのを、今でも覚えています。

また音楽療法が、中期アルツハイマー型認知症をもった、Eさんの旦那さんの役にも立っている事が目に見えました。旦那さんは、少し混乱していらっしゃり、落ち着きがない時は、頻繁に立ったり座ったりなどして、それを見ているEさんにも影響を与えていました。しかし旦那さんは、音楽療法の時は、長く椅子に座っている事ができたのです。

普段、旦那さんは、意味のある活動になかなか参加出来ないものの、音楽療法の時は、Eさんと一緒に音楽に参加されました。はたから見れば、何でもないような光景ですが、Eさんと旦那さんにとっては、とても貴重な時間だったのです。なぜなら、アルツハイマー病をもっている方や、その家族の方にとって、何かを一緒に行うという事は、結構難しい事だからです。

Eさんは「(旦那さんの名前)が、私と一緒に音楽に参加しているのを見ていると、幸せな気持ちになるわ。」と言われました。また時には、Eさんは息子さんや友達を音楽療法セッションに招待して、一緒に時間を過ごしました。その時間が、Eさんだけでなく、息子さんや友達にとっても、良い思い出になるのではないか、と思ったのかもしれません。Eさんは、愛する家族に囲まれ、安らかに息を引き取られたそうです。

ホスピスで失語症の為の神経学的音楽療法?

以前に、リハビリでよく使われる神経学的音楽療法はホスピスの現場でも活用できる、とツイッターで呟きました。先日、ホスピスの脳梗塞患者で、半身麻痺、失語症をもつCさんを訪問。部屋にハッピーバースデイと書いたカードがあったので、”今日が誕生日なのですか?”と聞くと、Cさんは頭を縦に振りました。”ハッピーバースデイソングを聴きたいですか?”と私が尋ねると、また頷いたので、私はさっそくギター伴奏でその歌を歌い始めました。

私が歌っている途中、驚く事にCさんが少し口を動かし始めたのです。それなので、私はまたハッピーバースデイソングを繰り返しました。今度は、Cさんが明らかに歌おうとしている事がわかったので、三回目….なんとCさんはゆっくりその歌を歌い始めたのです。最初、発声が出来ない部分もありましたが、Cさんが何回か自分で繰り返し歌っている間に、声も大きくなり、ちゃんと ”Happy birthday to you…”と歌えるようになりました。同じ部屋にいたスタッフの方もビックリ!

皆さんのご存知だと思いますが、ホスピスの患者さんの目標はリハビリではなく、緩和ケアです。しかし、このCさんの場合、神経学的音楽療法の言語リハビリテーションの知識、テクニックが役に立ちます(長くなりますので、言語リハの細かい説明は省きます)。もしCさんが家族に ”I love you.” と言えるようになったら、患者さんにとっても、家族にとっても、意味深いものになるのでは???

しかし、私が何をやりたいか?ではなく、Cさんが何をやりたいか?が一番大切な事です。もし、Cさんが言語リハ的な事を行って、例えば家族に”I love you.”と言いたいのであれば、私は喜んで神経学的音楽療法のアプローチを使います。しかし、Cさん自身、その意志がないのであれば、私はもちろんCさんのチョイスを尊重します。なぜなら、ホスピスはまず第一に患者さん(患者さん自身が選択ができない場合は、”保護者”と指定されている家族の者)の選択を尊重するものなのです。

その日、Cさんは良い一日を送っていたようです。半身麻痺で、あまり笑顔もみせられない日が多いですが、”ハッピーバースデイ”を歌った後は、表情はいつもより明るく、”ハ、ハッ!”という笑い声まで出ていました。

ギリシャ祭

先週、ギリシャ祭に行ってきました。ギリシャの食べ物、お土産品、ダンスなど盛りだくさんの内容で、たくさんの方がお祭りを楽しんでいるようでした(上の写真はインターネットで探したもので、私の行った祭からの写真ではありません:)。さてこのギリシャ祭は、とあるギリシャ正教会が主催しており、そのお祭りのついでにその教会の中も見学できるようになっていたのです。私はウキウキして見学に行きました。。。なぜなら、これは仕事に役立つ事だったからです。

ほとんどの読者の方が、私はホスピス音楽療法士であるという事を、すでにご存知だと思います。(欧米の)ホスピスは患者さんの身体面のケアだけでなく、感情、精神、社会面などのケアも行います(私は日本のホスピスについてあまりよく知りません。)。各患者さんには、担当の看護師、看護助士、ソーシャルワーカー、牧師がおり、音楽療法やマッサージは、個人のニーズに合わせて”処方”されるようになっています(患者さんやその家族がリクエストしたり、ホスピスチームが依頼した後、”オーダー”が書かれます)。

皆さんもご存知のよう、アメリカは他民族国家なので、患者さんの人種、宗教、家族構成も様々です。各患者さんの権利&信仰の自由を尊重しながら、ケアを行う事がホスピスの目標なので、色々な宗教について知っておく事は、スタッフにとってとても大切な要素なのです。ということで、今回はギリシャ正教会について習ってきました。教会はとてもカラフルで綺麗でしたよ。新しい事を習うって、ホント楽しいですね。

裕福だが寂しい VS 貧乏だが家族のサポートあり

音楽療法士として、多くのホスピス患者とその家族と働いてきました。

とても裕福な方、とても貧しい方、そのタイプは本当に様々です。

率直に言うと、お金は物を言います(特に、ここアメリカでは)。

裕福な方は、自宅で24時間、介護士を何年も雇う事ができます。

しかし、お金持ちでも家族があまり面会に来なくて寂しい、という患者さんもいらしゃいます。

それと反対に、とても貧しいが、家族が一生懸命介護する、というケースを目にした事もあります。

私には、”どちらが良い” などと言う資格は全くありませんし、それは個人の価値観によると思います。

しかしどのケースでも言える事は、死が近づいた時、愛している人に囲まれているかどうか?

という事は、ほとんどの方にとって、とても大切な問いなのではないでしょうか?

ご意見、ご感想、お待ちしております。

人間が死に近づいた時……

今日は、ホスピスの患者さんの話です。あの世に行く準備が出来た患者さんの中には、一人で過ごす時間を好んだり、来客を拒否したりする事が多々あります。

この現象は、死が近づいた方によく見られる光景です。それなので、患者さんが訪問を断っても、それを”拒否”だと思わないで下さい。

おそらくその患者さんは、あの世に行く準備をしているのです。

人間が少しずつ死に近づいた時、どのような行動をとったり、発言をしたりするのかを知る事は、ホスピスで働く上でとても大切です。

先立った家族の方の夢を見たり、その方について話をしたりする事も、死を間近にした方によくみられる光景です。

私の患者さんは、キリスト教徒の方が多いので、(幻想で)天使を見る方もいらっしゃいます。

私、ホスピス音楽療法士に出来る事は、患者さんとその家族の意見を尊重しながらサポートする事。

患者さんが一人でゆっくりしたいならば、そのチョイスを尊重する。これもサポートです。