水泳の怪物フェルプスは、競技前になぜ音楽を聴くのか?

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メダル取りすぎ!とも言いたくなる水泳の怪物、マイケル・フェルプス(アメリカ)。気付いた人も多いと思うが、いつも泳ぐ直前まで大きなヘッドフォンをつけている。「何を聴いているのかな?」と気になるのは私だけだろうか?フェルプスに限らず、多くのオリンピック選手が、競技前にヘッドフォンをつけている光景をテレビで目にするが、人生を180度変える事が可能な大舞台の前に、なぜわざわざ音楽を聴くのか?

『The Power of Habit』によると、実際、フェルプスの「勝つための日課」は、競技前に音楽を聴く事を含む (1)。勝つ事に、とても大切な要素なのだ。見ている方としては「あら、まだヘッドフォンつけてる。なんで?」と思うかもしれないが、これは彼の勝利プランの一部なのである。リオオリンピックで何を聴いているかは、はっきりしないが、ラップやカントリー音楽が彼のプレイリストに入っているらしい(2)。

多くの運動選手は、練習中、ウォームアップ中、競技前に音楽をよく聴く。その理由としては、気持ちをピークの状態にする、ハッピーな気分にもってくる、自信を感じる、敏感さを高める、リラックスするなど(3)。このリストを見ると、運動選手が最高の競技が出来るよう、目的をもって音楽を聴いている事がよく分かる。

また、練習中に音楽を聴く事は、疲労感の減少にもつながる事が証明されている。さらに、運動の動きにマッチしたリズムがある音楽を使う事で、その動作をより効率的に行える事もわかっている(4)。少しの差が、結果に大きな影響を及ぼすオリンピック。世界の頂点に立つためには、そのために出来るすべての事を行わなければならないだろう。ヘッドフォンの役割は、私達が想像した以上に大きいのかもしれない。

参考文献:

  1. Duhigg, C. (2014). The power of habit. New York, NY: Random House Trade Paperbacks.
  2. Goodman, J. (2016). Michael Phelps’ warmup playlist includes Eminem. Retrieved August 10, 2016 from http://www.ew.com/article/2016/08/09/michael-phelps-warmup-playlist-eminem
  3. Laukka, P., Quick, L. (2013). Emotional and motivational uses of music in sports and exercise: A questionnaire study among athletes. Psychology of Music 41(2) 198-215. 
  4. Bateman, A. & Bale, J. (Ed(s)).(2008). Sporting sounds: Relationships Between Sport and Music, Ch 1: 13-36.

フリーランス音楽療法士としてちゃんと食べていく!ための四つのオキテ

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雇用されて音楽療法士として働いた経験もありますが、今はフリーランスとして働いています。しかしフリーランスと言えば、自分で仕事をゲットしなければならないので、最初は結構プレッシャーもありました。私が長年の経験を通して習った大切な事は…

1.(当たり前の事ですが)いつも自分のスキルアップを目指す。講習会に参加したり、経験のあるセラピストからコンサルティングを受けたり、音楽の幅を広げるなど。自分に「投資」する事は、結果的にクライエントのためになります。

2. 常に新しい機会を探している。今、自分に十分な仕事があっても、クライエントが引っ越したり、契約している施設の予算の関係で、セッションの頻度を減らさなければならない事もあります。そのような時のために、常に新しい機会に目を向けている事はとても大切です。そしてそれは、安定した収入につながります。

3. 人脈を大切にする。時々、過去に一緒に働いていた人から、音楽療法の依頼がきます。ネットワークは本当に大事ですね。

4. 収入源は色々なところから。いつも安定した収入を得たいのならば、一つドカンと大きい契約をゲットして、それだけに頼らないようにしましょう。何らかの理由で、その契約がダメになったら、かなりの「打撃」を受けます。様々な収入源をもつ事が重要です(いろいろな施設、個人との音楽療法、講演など)。

 

リモさんの貢献は…音楽療法の現場にも

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先週、ドラム会社Remoの創設者のリモさん(日本では、Remoはレモと発音されているようですね)が、お亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。何年か前、リモさんに偶然お会いした事があります。あれは確か、全米音楽療法学会でクレア博士と発表した年。クレア博士と一緒にエレベーターに乗っていたら、彼女がリモさんを紹介してくれました。エレベーターでの短い時間だったので、私は「初めまして。」としか言えませんでしたが、リモさんはフレンドリーな笑顔を見せてくださいました。

リモ社と音楽療法には深いつながりがあります。学会では、リモが主催するドラムサークルがあったり、自分も含め多くの音楽療法士がリモのドラムをセッションで使っています。リモのドラムは質が良く長持ちするだけでなく、合成ドラムヘッドは清潔に保てます(音楽療法の後、楽器を殺菌ワイプなどで拭かないといけません)。

また、特に音楽療法の現場に適している楽器があります。それはNSL ドラム。NSLは、”not so loud”(そんなに、うるさくない)の略。室内でドラムを使用する場合、結構、音量が高くなり、仕事をしているスタッフにとってうるさすぎたり、音に敏感なクライエントが耳をふさいだりする事があります。でも、NSLドラムで音量を抑える事が可能。http://www.amazon.com/Remo-13-NSL-Versa-Head/dp/B00AY5GOE2

そして、Remo RBL Kitは、音楽療法のために開発されました。RBLは、”Rhythm, Breath, Lullaby”の略。新生児集中治療室などで使われます。下の写真で、丸い楽器はオーシャンドラムと似ていますが、それよりも静かです。また、木でできた箱のような楽器は、(新生児のお母さんの)心臓の音を真似て、赤ちゃんをリラックスさせるために使われます。ジョアン・ローウィー博士が、このセットの使い方のトレーニングを提供。http://amtanationalconference.com/cmte-spotlight-first-sounds-rhythm-breath-lullaby-intl-nicu-training/

やはり…..リモさんの貢献は大きいですね。

 

音楽療法の学会ってそんなにユニークなの?

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全米音楽療法協会の学会の内容はシリアスなものですが(研究結果、セッションの行い方、新しい領域での音楽療法などについての発表)、この学会ってとてもユニークなんです。なぜかと言うと…..

  1. 休憩時間に、どこからかアカペラグループの歌声が聞こえてくる。
  2. 隣で行われている発表の歌や楽器演奏が聞こえてくる。そして、(冗談で)それに合わせて歌い出したりする事もあり。
  3. 昼間の発表が終わっても、夜はドラムサークル、ジャムセッションなどがあり、そういったイベントが2am まで続行。
  4. 学生の奨学金を集めるための企画「5K」(参加料を払って5km)があり、夜景を楽しみながらコースを走るか歩く。
  5. 有名な音楽療法の先生を見かけ、ミーハー状態に。その高揚した気持ちを抑えながら、サインをもらうか戸惑う。
  6. 学会=同窓会。昔のクラスメートに会い、臨床や教育の場で活躍している友に励まされ、自分も元気をもらう。
  7. 学会で疲れているものの、新しく習った事を実際の現場で活かそう!とエネルギッシュな気持ちで仕事に戻る。

学会に参加する事は、やはり勉強になります。他の分野の学会は、どんな感じなのでしょう?

 

 

「神経の多様性」(neurodiversity)とは?

hands-creative-grass-moss「神経の多様性」(neurodiversity)という言葉を聞いた事がありますか?私達の脳の違いを指し、それによって行動や考え方が異なる事を意味します。最近この言葉は、自閉症などをもった方の違いを尊重し、その人に合った応対をすすめる事にも繋がっています。(参考文献1)。

例えば、自閉症をもった方の中には、じっと椅子に座れない人がいらっしゃいます。これは単に「我慢が出来ない子」「落ち着きがない人」なのではなく、脳の違いにより、じっと椅子に座るための機能が備わっていないケースだったりします(自閉症をもっている方の中には、感覚障がいを伴う人も多いです。それが影響する事もあり)。

私のクライエントZさん(自閉症をもっている)にとって、動かず椅子に座っている事はかなり困難なようです。周りにある家具や、近くにいる人の腕や手を頻繁に触りたがります。スタッフがZさんを”注意”しても、効果がありません。

私は、Zさんの行動を観察してみました。その結果、”むやみに人や物を触りたいのではなく、感覚刺激を求めているのでは?”と感じたので、「じっとしててね!」と毎回言う代わりに、Zさんの感覚のニーズを満たす物を渡してみました(レインスティック、スカーフ、凸凹のある用具など)。そうすると、Zさんは周りの人や物を触りません!(やっぱりね、と思う瞬間)。

セラピーの分野でも、上記のような行動に対して色々なアプローチがありますが(例:反対に「手を頻繁に動かす」という行動を抑制しようとする方法)、脳の違いを考慮し、個人の”特徴”に合った適応方法を使用するアプローチは「神経の多様性」(neurodiversity) に基づいたものと言えるでしょう。

参考文献:

National Symposium on Neurodiversity at Syracuse University. (2014). What is Neurodiversity? Retrieved October 25, 2015 from https://neurodiversitysymposium.wordpress.com/what-is-neurodiversity/

ゴーストボーイ

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反応できないから、どんな音楽を流してもいい、というわけではないのです。以下は「ゴーストボーイ」こと、マーティンの実話。

12歳で、植物状態のようになったマーティン。本人いわく、16歳頃の時、だんだんと周囲の環境に気づき始め、19歳頃からは、はっきりと周りの様子がわかっていた。

スタッフは、毎日のように「バーニー」(音楽を交えた幼児向けのテレビ番組)をつけて、マーティンは、何時間もそのテレビの前に座らせられたの事。

彼が25歳の時、あるスタッフがマーティンの反応に気づき、そこからコミュニケーションの向上や、機能回復を目的とした介入が行われるようになった。

「バーニーは見れないし、その音楽も全くだめ。」と、マーティンはコンピューターを通して感情を伝える。同じ曲を何度も何度も、選択なしに聞かされ、信じられない程の苦痛を体験したマーティン。

そしてこの経験は、今、彼にとってトラウマになっている(「バーニーのフラッシュバックや悪夢を体験する。」)こちらが、マーティンの英語の記事です。彼のウェブサイトもあります。

反応できない方、皆が周囲の様子に気づいている訳でないとしても、注意して音楽やその他の刺激を与える事が、やはり大切ですね。実際、昏睡状態や植物状態の患者さんと働く音楽療法士は、世界中にたくさんいます。

参考文献:

‘Ghost boy’ Martin Pistorius Gives First American Television Interview: http://www.aol.com/article/2015/01/29/ghost-boy-martin-pistorius-gives-first-american-television-int/21136713/

植物状態:http://merckmanual.jp/mmpej/sec16/ch212/ch212b.html

目標は「音楽の奇跡」の裏側を説明&シェアする事

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明けましておめでとうございます。やっと、今年の目標が決まりました。それは…..「音楽の奇跡」の裏側を、皆さんにわかりやすく、ブログで紹介していく事です。昨年は、ドキュメンタリー『パーソナル・ソング』も日本で公開されるなど、「音楽」と「奇跡」が結びついたツイッターや、サイトをよく見かけました。

アメリカで『パーソナル・ソング』のYouTube宣伝が始まった時も、何人かの知り合いが「この音楽と認知症のドキュメンタリーの宣伝見た?すごいよ。」とメールしてくれました。その宣伝を見て、真っ先に私の事を考えて、わざわざメールをくれた方々には、とても感謝しています。

ところで、私は音楽療法士として、12年近く働いています。世間が言う、いわゆる「音楽の奇跡」のようなものを1日平均3回ぐらい目撃します(笑)。また、私だけでなく、他の音楽療法士も、同じような事を、毎日経験している事でしょう。

(自称)音楽療法マニアの自分としては、「音楽の奇跡」のからくりを皆さんとシェアする事に、使命感を感じています!それでは、今年もよろしくお願いいたします。

飲酒検問所で「ABCの歌」は禁止!なぜ?

アメリカのある地域で、警察関係の仕事をしている人から聞いた話です。飲酒検問所では、飲酒の疑いのある人に対し、警察は飲酒検査を行います。

その中で、「アルファベットをAから順番に言って下さい」という検査があるそうです(私は飲酒運転しないので、こういった検査を受けた事がありません。)。

その時、アルファベットを歌う(ABCDEFG–と日本の中学の始めに習う「ABCの歌」を歌う)事は禁止されているそうです。なぜ?(ここで音楽の作用が関わってきますね!)

その警察関係の人によると「とても酔った人でも、ABCの歌は歌える」という事。つまり飲酒により、判断、認知能力が低下している状態でも、馴染みのある歌(アメリカ人はABCの歌を幼い時に習う)を歌えるという事。

これでは、警察も正確な検査ができないという訳です。その結果、アルファベットを歌ってはダメ、(メロディーなしで)言わないといけない、というルールのようです。ちゃんと警察関係の方も、音楽の作用を知っているんですねー。

医療と人

「治療のため、何日か入院する事になって、とても嫌だったけど、スタッフがよくしてくれたから、病院もそんなに悪くなかったよ。」 これは最近、音楽療法で訪問した患者さんの言葉です。

やっぱり「人」って大切なんだなーと思いました。最先端の医療ももちろん重要ですが、スタッフが患者さんとどのように接するか、という事もとても大切な要素です。医療関係者としての知識や技術に加え、親切な対応、笑顔、患者さんを支援しようとする意欲は、患者さんに大きな影響を与えるのではないか?と思います。

もちろん、医療関係者である限り、いつもニコニコして仕事を行えるわけではありません。患者さんや家族の方に「ネガティブなニュース」を伝えなくてはならない事が多々あります。私も、患者さんのセッションの様子や結果を、家族に電話で直接報告する場合もあります(これは患者さんや家族の希望によります。)。

患者さんが「今日はあまり反応しなかった」とか「体調が悪そうだったから、担当の看護師に連絡をとりました。」など、正直にセッションの事を伝えるのが私の役目です。まして医者ならば、病名の告知など、とても言いづらい事を言わなければなりません。

それでも、プロとして適切な能力をもつ医療関係者の「患者さんを全力で支援しよう」という純粋な心は、患者さんやその家族に伝わるのではないかと思います。もちろん、それで全ての病気を治せるわけではありません。私達、医療関係者に出来る事は「患者さんがいる状況の中で、彼らの身体面、精神面、社会面、その他必要なサポートを全力で行う」という事ではないでしょうか。

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